私は半年ほど前から、モバイルデバイス向けリズムゲーム「プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat.
初音ミク」(以下「プロセカ」)をプレイしている。同作はリズムゲームとしての完成度も十分に高いが、それに加えて登場するキャラクター達の成長や葛藤を描くストーリーもかなり読み応えがあるものである。
プロセカにはおなじみのピアプロキャラクターズに加え、4人で構成されるユニットが5つで、20人のオリジナルキャラクターが登場する。
各ユニットのキャラクター達は、同じ町で活動しており、年齢層も極めて近い(全員高校生である)が、ユニット毎に抱えているバックグラウンドや音楽との付き合い方、目標、問題意識等は全く異なり、イベントストーリー等で複数ユニットが絡む交流を見せながらも、基本的に物語はそれぞれ独立して進行していく。
私はストーリーを読み進める上で、ユニットをまたぐ2人の関係性に興味をそそられた。幼馴染でバンドを結成した「Leo/need」(以下「レオニ」)の望月穂波、インターネットを通して知り合った仲間と楽曲作りをしている「25時、ナイトコードで。」(以下「25」)の宵崎奏の関係性である。
この2人の関係は、宵崎奏が「家事代行サービス」を望月穂波に依頼したことから始まったが、リリースからの1年間で、その距離感は大きく変わったように思える。
本稿では、これまで描かれた2人のかかわりについて整理・検証することでこれを明確にし、作中でのカップリングについて考察するための出発点を見出したいと思う。
また、本稿はその特性上、ストーリーの重大なネタバレを含むので注意されたい。
望月穂波と宵崎奏について、まずホームページ上で公開されている紹介文を引用する。
「中学時代のあること」とは穂波の持つ優しさが誤解されたことに起因する(と作中では描写されている)いじめであり、これが波及することを恐れて星乃一歌をはじめとする幼馴染と距離を取ることになった。この経験がトラウマとなって、高校進学後は自我を殺し、友達付き合いの対象を絞り、その対象におもねることで保身に努めていた。[2]
奏が絶望させてしまった「大切な人」とは彼女の父親である。作曲家である奏の父は、自分の作品が「前時代的」と評されるなど、限界を自覚しながら制作を続けていた[4]。そんな父を元気づけようと奏が作った楽曲を聴いたことで、その天才性を確信し、彼女を「音楽に愛されている」と評価しながらも、それに圧倒された奏の父は心因性のストレスで倒れてしまう[5]。
このように、望月穂波・宵崎奏両名とも、極めて重いバックグラウンドを持つキャラクターである。奏の祖母が家事代行を頼んだこと[6]、穂波は母の知り合いから勧められて家事代行のアルバイトを始めたこと[7]で、この2人が出会うことになった。
本章では、作中で描写された2人のかかわりについて、一切の独自解釈を交えずに事実を整理し、論点を列挙する。ただし、日時を示す描写が殆どないため、時系列は憶測を多分に含む。
第一に、初期のサイドストーリーでは、奏は穂波のことを「すごくちゃんとしてる」[7]と評価し、穂波はアルバイトのことを「楽しくやらせてもらってる」[9]と語っていた。一方で、後に「近寄りがたいっていうか、話しかけづらい雰囲気があった」と振り返ってもいる[10]。また、奏は「知り合った頃は、お互いに干渉しあわないようにしてた」と振り返っている[11]。
第二に、奏は穂波のことを「優しい笑い方」と思う一方で、「目がなんだか寂しそう」「お父さんに似ている」として、気にかけていた[12]。このサイドストーリーの描写からは、この会話は25のメインストーリー中盤のものであり、また穂波はトラウマをひとりで抱え込んでいる状態であることがわかる。
第三に、この会話内で、奏は「望月さんは……消えたいと思ったこと、ある?」と問うた。穂波は「あります。少しだけ」と答えた上で、同じことを尋ね返す。両者は、互いが大きなトラウマを抱えていることを認識する一方で、奏は25のメインストーリーで直面している具体的な問題については言及しなかった[13]。
第四に、初期のイベントストーリー(『囚われのマリオネット』)内では、奏は「ご飯も美味し」い、「こんなに家事ができて、わたしのことも気にかけてくれ」るとして、「望月さんはすごい」と評した[14]。
第五に、この評価を前提として、25のメインストーリー時から継続して向き合っている問題について、「助けたい人がいる」「望月さんならどうする?」と意見を求めた[15]。
第六に、それに対して答えるなかで、穂波は「周りに迷惑をかけたくなくて、ひとりで抱え込んでしまう人もいる」と遠回しに自己開示をした[16]。
第七に、その会話の後、穂波は人形展のチケットを曲づくりの参考になれば、と手渡した。後のサイドストーリーで、奏はその行動について自分と「助けたい人」が「話すきっかけを作れるようにするためだった」のではないかと指摘し、穂波も「お節介」であったとしながらそれを認めている[17]。
第八に、同じ会話内で、穂波は「友達が諦めないでいてくれたから、また前を向けるようになった」と更に自己開示した上で、「その人のこと」を「諦めないであげて欲しい」と語った[18]。
第九に、リリース半年後のサイドストーリーで、奏は穂波を「すごく優しい人だと思ってたけど、
犬とか植物とか、人間以外にも優しい」と評価し、「望月さんの話、聞いてて楽しい」と伝えた。[19]
第十に、穂波は奏に花を咲かせた桜の枝を手渡し、自分の行動を論点七と同様に「お節介」だとしながらも、「桜を見る宵崎さんの目が、
すごく優しかったので」「大切な思い出があるのかなって思った」と自分の行動について説明した[20]。
第十一に、その会話の数日後、奏は桜の枝について、穂波に対し口頭で感謝を伝えた上で、心の中で「本当に、ありがとう…」と重ねて感謝した[21]。
第十二に、穂波は奏のスランプ[22]を察して、空気清浄機のフィルター掃除の文脈で「気分よく作業もできると思う」と話した。その配慮に反応した奏に対して、「作業してる時の宵崎さん、
なんだか難しそうな表情をされていたので……」とスランプを察した理由を説明した[23]。
第十三に、穂波は奏の体を心配して不摂生を指摘した。それに対し、奏は作品のクオリティに影響が出るという理由で「なるべく気をつける」と回答、穂波は言葉を失った[24]。
第十四に、論点十に引き続いて穂波は花(芍薬)を持ってきた。奏は花について、今後は清掃のオプションとして正式に依頼すると申し出た[25]。
第十五に、奏は家事代行サービスについて、依頼主とアルバイトの関係から「一緒にお茶を飲むのが当たり前にな」ったという関係性の変化に思いを馳せ、「……本当に、落ちつくな」と発言した[26]。
第十六に、論点十四から継続して穂波が持ってくるようになった花に関連して、花を選ぶのを手伝っているという幼馴染(=星乃一歌)について会話を交わした。その文脈で、穂波は「他にもわたしにできることがあったら
なんでも言ってくださいね」と伝えた[27]。
第十七に、奏は論点十五の文脈に立ち返って、「うちに来てくれる人が、望月さんでよかったな」と伝え、穂波は「わたしもお邪魔するおうちが
宵崎さんのおうちでよかったです」と応じた[28]。
第十八に、イベントストーリーの文脈[29]で、作詞に行き詰まっている一歌の役に立てることはないかと考えるなかで、穂波は楽曲制作経験のある奏に相談することを思いついたが、依頼主とアルバイトという関係性が前提であるため、「プライベートな相談をするのはダメ」だと思い直した[30]。
第十九に、論点一に立ち返った上で、穂波は「こんなに普通の話ができるようになれて、嬉しい」と考えた[31]。
第二十に、論点十六に関連して「花を調べることが練習の邪魔になっていないか」と奏は一歌を心配した[32]。
第二十一に、論点二十の文脈から、論点十八で考えた関係性も念頭に起きつつ、穂波は自分たちのバンドがライブハウスで演奏したこと、オリジナル曲を作っていることを伝え、緊張しながらも練習時に録音した音源を聴かせた。奏は一歌の声に反応する(一歌とは以前のイベントストーリー[1]内ですれ違っているため)[1]。
第二十二に、奏はレオニのオリジナル曲について、技術的なコメントをした上で、論点二十一の一歌に関わる質問をし、曲に対する前向きなコメントも付け加えた[1]。
第二十三に、上に関連して、穂波は論点五の会話を思い出し、その後の進展を尋ねた。奏の回答を受けて、奏も全能であるわけではなく、少なからず産みの苦しみを味わっていることを悟った[36]。
第二十四に、穂波はレオニのメンバーについて、「信じて見守るだけで、何もしてあげられなかった」と、論点十八を根拠に踏みとどまっていた具体的な相談まで行う。それに対して、奏は「信じてくれる人がいるのは、それだけですごく心強いから」それで十分ではないか、と答え、「実際わたしは、望月さんの優しさにとても助けてもらってる」と付け加えた[37]。
第二十五に、穂波は論点十八を念頭に愚痴を言ってしまったことを謝るが、奏は「これくらい気にしない」と応じた[38]。
第二十六に、穂波はヒガンバナ科(旧分類ではユリ科)のネリネ(ダイヤモンドリリー)を奏に手渡した。奏は「リリーって、ユリだっけ?
たしかに、ちょっと雰囲気似てるかも」とコメントした[39]。
第二十七に、穂波が誕生日であることを知った奏は、「花をプレゼントさせてほしい」「ちょっとでもお礼がしたい」と申し出る。穂波は仲良くなれていることを実感しつつ、「楽しみにしてますね」と応じた。後日、奏は穂波にチョコレートコスモスをプレゼントした[40]。
第二十八に、穂波と奏は最近気温が低くなってきたため、互いの体調を気遣った[41]。
第二十九に、一歌と奏に共通の趣味があったことを、穂波は「なんだか嬉しい」と語った。一方で、穂波の「朝比奈先輩と宵崎さんがお友達だったなんて
びっくりしました」という発言について、奏は「友達、か…」と呟いた[42]。
第三十に、一歌が奏に興味を示し、「話してみたい」と言っていたことから、穂波は奏に「その子(一歌)に会ってもらえ」ないか、と打診した[43]。
第三十一に、一歌と奏の会合について、穂波は奏から「あまり人と話すことってないから、何を話せばいいのかわからなくなりそう」だから同席して欲しいと頼まれ[44]、一歌からは「何を話せばいいかわからなくなったら困る」から同席してほしいと頼まれた[45]。穂波は「ふたりとも似たようなこと心配してるな」と2人の新たな共通項を見出した[46]。
第三十二に、待ち合わせ場所で穂波と顔を合わせた奏は、「こういうところで会うと、なんだか不思議な感じだね」と話した[47]。
第三十三に、論点十六前後について、穂波は「花に詳しい幼馴染」が一歌であることを、奏に明かし、一歌の印象について言葉を交わした。奏は一歌について、「その(優しい)雰囲気も、イメージどおりだった」と話、穂波は「大事な幼馴染を褒めてもらえて、嬉し」いと反応した[48]。
第三十四に、穂波は論点三十に応じてもらったことについて、一歌が「すごく喜んで」いたとして、奏に謝意を伝えた。奏はそれに対し、「充実した時間をすごせた」ため、穂波に礼を言った。穂波は、「宵崎さんにも喜んでもらえたみたいで、よかった」と喜んだ[49]。
第三十五に、穂波と奏が街で会った(=マップ会話が発生した)ことは現時点で5回ある。うち4回は偶然の遭遇で、1回目では穂波がバンドをやっているという話をし、2回目では穂波が「街で会えるなんて(同じ街に住んでいるという実感が得られて)なんだか嬉しい」と話し、奏が「今までも
どこかですれ違っていたのかもしれない」と応じた。3回目は徹夜明けに打ち上げをして疲れきった奏を穂波がカフェに誘った。4回目は大掃除のための掃除用品を買い込んだ穂波が奏を見つけて声をかけ、「今度お邪魔した時、宵崎さんのおうちも大掃除」するとし、「ぴかぴかにするので、楽しみにしていてください」と話した。奏は「いつもありがとう、望月さん」と答えた[50]。
第三十六に、マップ会話のなかに、穂波と奏が一緒に街に出る描写がある。奏が穂波の買い物を手伝う内容で、穂波は食べ物に関して「宵崎さんの好み、ちょっとわかってきた気が」すると話し、「自分ではよくわからない」と言う奏に「予想が正しいかもう少し検証できたら、お話」すると答えた[51]。
(1) 論点の整理
本章では、前章で列挙した穂波と奏に関わる作中の描写に基づいて、その関係性の変化や性質を考察する。
これを考察するにあたって、2人の関係性の変化を大きく3つの時期に分けて考えることとする。具体的には、時期が特定できないマップ会話に関わる論点三十五・三十六を除き、論点一から論点三までを「初期」、論点四から論点十七までを「中期」、論点十八から論点三十四までを「現在」とする。
(2) 「初期」の関係性について
家事代行の依頼を始めた当初は、互いに距離を取っており、干渉しないようにしていた(論点一)一方で、奏は自分の父や朝比奈まふゆ(以下「まふゆ」)と重ねながら、穂波がトラウマを抱えていることを感じ取っており(論点二)、かなり突っ込んだ質問をしながら(論点三)、遠回しながら穂波への配慮を見せ、少し距離を縮めた。
(3) 「中期」の関係性について
「初期」から「中期」の関係性の変化について、論点五で奏が穂波に具体的な相談を持ちかけたこと、それに応じた穂波の自己開示(論点六)と「お節介」(論点七)が契機であると言える。これまでは互いに気にかけながらも、個別具体的な相談をしたことはなかったが、これを以て壁がひとつ崩れ、一定程度互いに心を開いたことになる。
「中期」の特徴については、既に健康面で穂波(家事代行)に依存していた奏が、穂波の持つ本質的な優しさに気づき、距離を寄せていくことが挙げられ、これは特に論点十一や十五に表れている。
穂波も論点十や十二に見られるように、仕事の枠を超えて奏を気遣うようになる。一方で、自らの私的な問題について奏に相談することは避けるなど、公私の区別をつけている。
(4) 「現在」の関係性について
「中期」から「現在」は、穂波の行動によって変化したものである。これまでは上述の通り、また論点十八の自己問答にも見られるように、公私を峻別することに努めていた穂波が、遂にレオニに関連する私的な相談を奏に持ちかけるに至った(論点二十四)。
また、奏の生活や音楽スキルについて年齢差以上の距離感を覚えていた穂波が、全能に見える奏にとっても制作は試行錯誤の繰り返しであることに気づく(論点二十三)など、ここにきて認識の変化が生じた。
奏についても、論点二十四での発言に見られるように、穂波に精神的に依存している様子を垣間見せるようになった。
本章では、これまで挙げた論点とその解釈に基づき、もう少し考察を深めてみる。
(1)「初期」に関わる考察
まず前章で述べた、論点三に関わる奏の「遠回しながら穂波への配慮」に関連して、以下に該当箇所のテキストを引用する。
これは論点三で挙げた「消えたいと思ったことはあるか?」という会話のあとの問答であるが、極めて示唆に富んだものであると考えられる。
最初の穂波の問いについては、今まさに自我を殺し、保身に徹した高校生活を送る中で、現状を打開するヒントを得ようとしたものであろう。実際にそこまで考えての発言であるかどうかは定かではないが、この問いが口をついて出た以上、彼女の胸の内が希望を求めていたことは疑いようがない。
これに対し奏が「曲を作り始めた」と答えた直後に「でも……」と逆説につなげたのは、自分の曲が「誰かを幸せにできる曲」ではなかったために父を苦しめた、「誰かを幸せにできる曲」「どんな人でも救える曲」を作らなければいけない、という自己暗示を原動力に制作を続けていたにもかかわらず[53]、自分の曲に「救われた気がした」と語った[54]まふゆのことを実は救えていなかったのだと悟り[55]、それに少なからぬ無力感を覚えているため、消えたいと思った「あと」の行動として説明できる自信がないという含意がある。
しかし奏はこの心情を吐露せず言葉を飲み込み、不器用ながらも穂波が提供した紅茶とアップルパイの感想を伝え、「また」食べたいとして、穂波に向けて最大限の前向きな言葉をかけた。
この引用した箇所の問答は、2人の関係の出発点を位置づける印象的なものである。
(2) 「中期」に関わる考察
中期には奏が穂波に心を寄せる一方で、穂波も奏に細やかな気配りを見せるようになるが、その中でも効果的で、特筆すべきものは論点九から十一であろう。
以下が当該サイドストーリーのあらすじである。
最初は「犬とか植物とか、人間以外にも優しい」(論点九)穂波の自然な行動として拾ってきた桜の枝であるが、穂波は奏の表情から桜に思い入れがあることを察し、花を咲かせた上で長持ちできるようにひと工夫加え、奏に手渡したのである。これによって父との「花見」が叶った奏は、穂波に心から感謝した(論点十一)。
ここでの穂波の行動の多くは、彼女がもとから持つ優しさに根ざしたものであり、またこの最終的な効果までは彼女が意図したものではないが、ここで見られる穂波の洞察力と配慮は、誰にでも向けられるものではないようにも思える。論点十二でも見られるように、穂波の奏への気配りは「中期」でひとつ上の次元にシフトしたと考えられる。
(3) 「現在」に関わる考察
まずメタ的な指摘であるが、サイドストーリーに於いて2人のやり取りが描かれるのは「中期」までは奏のサイドストーリーだけであったが、「現在」になって初めて、穂波のサイドストーリーに奏とのやり取りが登場する。
前章で指摘したように、穂波がプライベートな相談を奏に持ちかけたことや(論点二十四)、穂波の奏への認識が改まるなど(論点二十三)、相互理解と関係性が深まったことに加えて、論点二十、二十一、二十九から三十四までに見られるように、これまですれ違っていた奏と一歌の接点も大きくなった。
奏と一歌に関係性が芽生えたり、2人の間に共通項が見つかったりすることについて、穂波は前向きな感想を抱いている(論点三十一、三十三、三十四)が、穂波と奏の関わるストーリー以外でも奏と一歌に関わる伏線は多く貼られており、今後の関係性にどのように影響するかは全く予断を許さない。
奏は一歌、穂波と顔を合わせたことについて「充実した時間を過ごせた」と語ったほか(論点三十四)、「実はいろいろ忘れて、失くしちゃったりしてるのかな」「それに気づけたっていうのは、よかったのかも」と、現状のある種の異常性に気づくなど[57]、以前は穂波の健康を気遣う忠告にも大きな反応を見せなかった(論点十三)のに対し、自らの認識を改めるなどの変化が生じている。
このように、穂波と奏の関係性は「現在」でも深化を続けている一方で、25とレオニのユニットを跨いだ交流面が大きくなったことで、新たな化学反応が起き始めていることが確認できる。
(4) 望月穂波と宵崎奏の抱えている問題について
穂波が抱えていた対人関係のトラウマについては、レオニのメインストーリーとイベント「揺れるまま、でも君は前へ」のストーリーについて、作中では概ね解消したことになっている。現在では、論点二十四でも見られるように、バンドとしてプロを目指すにあたって、仲間が壁にぶつかっている中で自分はどうサポートできるか、という極めて年相応な悩みや問題と向き合っている状況である。
一方で奏は、メインストーリー内でも「呪い」と位置づけたように[58]、「まふゆを救える曲」を作ることに全てを投じており、「それができないなら──ここにいちゃいけない」とまで語ったこともある[59]。奏は、25のキャラクターの中では情緒が安定しているものの、その安定性は曲を作るという目的に向けたもので、スランプや父の容態などの状況によって大きく左右される。奏が背負っているものは、明らかに不釣り合いで、また自分の成果物を評価する軸を完全に他者(多くはまふゆ)に置いているという危険性も指摘でき、作中に登場するキャラクターの中で最も危なっかしい存在であると思われる。
論点三に見られるように、穂波と奏は出発点こそ近いが、いま現在置かれている状況は大きく離れており、また奏は健康面について、完全に穂波に依存している。前項で指摘した奏の自身の認識の変化は、ユニット内での交流でも見られるものであるが[60]、その規模は限定的で、忘れていたものに気づいて取り戻すためには、ユニットを超えた交流が必要であると考えられるが、家にこもって楽曲制作をしている奏と定期的に接触できるユニット外のキャラクターは、現状穂波だけである。
したがって、奏の成長や変質のきっかけとなり、それを見守ることができる穂波と奏の関係を示す描写は、極めて意義深いものであると言え、今後のストーリー展開を追う上でも注視していく必要がある。
(1) 関係性のまとめ
ここまでの議論から、穂波と奏の関係性が現在どのようなものであるかを考えると、第一に対等な関係であると言えよう。これは当然ではあるのだが、「依頼者とアルバイト」、年齢差(一学年しか変わらない)といった要素を鑑みても大きな隔たりがあった当初と比べて、かなりフラットなものになった。
第二に、穂波にとっては限りなく「友達」という認識に近いだろう。「友達」の定義がうんたらという議論はここではしないが、論点二九や三十一で見られるように、一歌などの幼馴染と同列に語っているあたり、極めて距離感は近いものと考えられる。
第三に、奏にとって穂波は、客観的には「保護者」という表現がしっくりきそうである。再三指摘したように、自身の身の回りの面倒について奏は完全に穂波に依存しており、今後奏を取り巻く環境が変化したとしても、当面この状態は変わらないだろう。また、普段焦燥感を覚えながら休む間もなく制作に打ち込んでいる奏が、穂波とお茶を飲んでいるときは「……本当に、落ちつくな」と呟くなど(論点十五)、精神的な拠り所になっている様子も伺える。
一言でまとめることはできないが、相互に信頼しており、これまでの議論から奏は穂波に大部分を依存していることは明らかである一方で、いわゆる共依存のような状態ではなく、健全な関係性ではある。
(2) その他の人間関係
しかし、ここまでの議論だけでカップリングを語るのは早計である。穂波と奏を取り巻く人間関係にも着目して置く必要がある。
まず、本作に登場するキャラクターの関係性の多くはユニットの中で発展するもので、ユニットを跨ぐ関係性の密度は、前者に比べて濃いものではない。 穂波はレオニのメンバーである幼馴染との関係が軸となっているし、奏はまふゆを救うことを生きがいにしていると言っても過言ではない。
まふゆに関しては、意識が混濁した状況下ではあるが、奏に「……。いか、ないで」「……ひとりに、……しないで……」と言ったこともあり[61]、また、執筆時で最新のイベントでは「奏が、嬉しいのなら——よかった」と発言している[62]ことから、前章で述べた「呪い」という位置づけから奏との関係性が変質していることが指摘できる。
また、奏にとって一歌との交流は新たな刺激になったことはこれまでの議論からも明らかで、奏の中での穂波の存在の比重が変わってくる可能性はある。
(3) 今後の展望と、プレイヤーとしての態度
まず、穂波と奏がいわゆる共依存のような関係性にシフトする可能性は低い。シナリオチームへのインタビューでも、レオニの「等身大な空気」が崩れることはないとしており[63]、バンドとしての壁を一つずつ乗り越えていく過程で奏に頼ることはあったとしても、それ以上精神的に依存することは考えにくい。奏もまた、穂波をはじめとするレオニとの交流は現時点で前向きな効果を持つものとして描かれているため、やはりユニット外に25の独特な関係性が持ち出されることは少ないであろう。
同インタビュー内で、シナリオの方向性について大筋は最初から決まっているが、シナリオを詰めていく過程で細かい部分はキャラクターの心情に合わせて都度変更していると語られた[64]。アドベンチャーゲームのシナリオライターの言葉を借りると、「キャラの名前は作者がつけるのではなく、作者が設定した両親につけさせる」[65]方式である。
したがって、穂波と奏の絡みは初期から描かれているため、一定の筋道は立てられていると思われるが、このような制作方式のため、おそらく破壊的な展開を迎えることはなく、このまま掘り下げられるだろう。
つかず離れずの健全な関係性として描かれている以上、プレイヤーとしてはカップリングがどうこうと軽率な反応をするのではなく、彼女らが関わり合うなかでどのように成長していき、その過程をどのように描かれるのかを落ち着いて見守っていくことが望ましい態度であると思われる。
ここまで「百合」という単語は一度も使わなかったが、広義のものも含めて百合ジャンルというものは極めてその表現の自由度が高い。セカイ系から、ささやかな友情まで、様々なものを繊細に美しく描写することが可能である。
穂波と奏の関係性が「百合」に含まれるか否かという議論はここでは控えるが、2人の間に描かれる細やかな「優しさ」を軸としたストーリーは、同作の中でも他に例を見ないものであり、この繊細な世界観を損なわずに、ゆっくりと発展していって欲しいと願う。
本稿では2人を取り巻く他の人物に関わる議論を深めることはできなかったが、機会があればこうした評価軸も含めて関係性を研究したいと思う。
Leo/need メインストーリー12話
25時、ナイトコードで。 メインストーリーオープニング、3話、7話、10話、11話、17話、18話
囚われのマリオネット イベントストーリー2話
シークレット・ディスタンス イベントストーリー2話
君と歌う、桜舞う世界で イベントストーリー8話
カーネーション・リコレクション イベントストーリー5話
カーネーション・リコレクション イベントストーリー6話
Knock the Future!! イベントストーリー1~3話
灯のミラージュ イベントストーリー5話
交わる旋律 灯るぬくもり イベントストーリー5話
交わる旋律 灯るぬくもり イベントストーリー6話
交わる旋律、灯るぬくもり イベントストーリー8話
★1[音楽に愛された少女]宵崎奏 サイドストーリー後編
★2[Leo/need]望月穂波 サイドストーリー後編
★3[画面の向こうに…]宵崎奏 サイドストーリー前編
★4[生きているように]宵崎奏 サイドストーリー前編
★2[この春を、あなたと……]宵崎奏 サイドストーリー前編
★2[この春を、あなたと……]宵崎奏 サイドストーリー後編
★3[儚さと美しさ]宵崎奏 サイドストーリー前編
★4[思い出の花壇]宵崎奏 サイドストーリー前編
★4[思い出の花壇]宵崎奏 サイドストーリー後編
★4[できることを探して]望月穂波 サイドストーリー前編
★4[できることを探して]望月穂波 サイドストーリー後編
[Happy Birthday!!]望月穂波 サイドストーリー後編
★3[大切な幼馴染みのために]望月穂波 サイドストーリー前編
★3[大切な幼馴染みのために]望月穂波 サイドストーリー後編
★3[いつものラーメン]宵崎奏 サイドストーリー後編
マップ会話 スクランブル交差点 穂波×奏 ID:839
マップ会話 ショッピングモール 穂波×奏 ID:840
マップ会話 音楽ショップ 穂波×奏 ID:841
マップ会話 センター街 穂波×奏 ID:1185
マップ会話 ショッピングモール 穂波×奏 ID:1218
「望月穂波 | Leo/need | CHARACTER | プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat.初音ミク」(https://pjsekai.sega.jp/character/unite01/honami/index.html)(最終閲覧:2021年12月7日)
「宵崎奏 | 25時、ナイトコードで。 | CHARACTER | プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat.初音ミク」(https://pjsekai.sega.jp/character/unite05/kanade/index.html)(最終閲覧:2021年12月7日)
「『プロセカ』ネタバレ全開シナリオチームインタビュー! 苦しくなる展開もあるけれど、不安になりすぎずに見守ってほしい」(https://news.denfaminicogamer.jp/interview/211005a)(最終閲覧:2021年12月8日)
涼元悠一のツイート(https://twitter.com/SuzumotoYuuichi/status/1231212960992751616)(最終閲覧:2021年12月8日)
[1] 「望月穂波 | Leo/need | CHARACTER | プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat.初音ミク」(https://pjsekai.sega.jp/character/unite01/honami/index.html)
[2] Leo/need メインストーリー12話
[3] 「宵崎奏 | 25時、ナイトコードで。 | CHARACTER | プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat.初音ミク」(https://pjsekai.sega.jp/character/unite05/kanade/index.html)
[4] 25時、ナイトコードで。 メインストーリー10話
[5] 25時、ナイトコードで。 メインストーリー11話
[6] マップ会話 音楽ショップ 穂波×奏 ID:841、囚われのマリオネット イベントストーリー2話
[7] 囚われのマリオネット イベントストーリー2話、★2[Leo/need]望月穂波 サイドストーリー後編
[8] ★1[音楽に愛された少女]宵崎奏 サイドストーリー後編
[9] ★2[Leo/need]望月穂波 サイドストーリー後編
[10] ★4[できることを探して]望月穂波 サイドストーリー後編
[11] ★3[いつものラーメン]宵崎奏 サイドストーリー後編
[12] ★3[画面の向こうに…]宵崎奏 サイドストーリー前編
[13] 同上
[14] 囚われのマリオネット イベントストーリー2話
[15] 同上
[16] 同上
[17] ★4[生きているように]宵崎奏 サイドストーリー前編
[18] 同上
[19] ★2[この春を、あなたと……]宵崎奏 サイドストーリー前編
[20] 同上
[21] ★2[この春を、あなたと……]宵崎奏 サイドストーリー後編
[22] シークレット・ディスタンス イベントストーリー2話
[23] ★3[儚さと美しさ]宵崎奏 サイドストーリー前編
[24] ★4[思い出の花壇]宵崎奏 サイドストーリー前編
[25] 同上
[26] ★4[思い出の花壇]宵崎奏 サイドストーリー後編
[27] 同上
[28] 同上
[29] Knock the Future!! イベントストーリー1~3話
[30] ★4[できることを探して]望月穂波 サイドストーリー前編
[31] ★4[できることを探して]望月穂波 サイドストーリー後編
[32] 同上
[33] 君と歌う、桜舞う世界で イベントストーリー8話
[34] ★4[できることを探して]望月穂波 サイドストーリー後編
[35] 同上
[36] 同上
[37] 同上
[38] 同上
[39] [Happy Birthday!!]望月穂波 サイドストーリー後編
[40] 同上
[41] 交わる旋律 灯るぬくもり イベントストーリー5話
[42] 同上
[43] 同上
[44] 同上
[45] ★3[大切な幼馴染みのために]望月穂波 サイドストーリー前編
[46] 同上
[47] 交わる旋律 灯るぬくもり イベントストーリー6話
[48] ★3[大切な幼馴染みのために]望月穂波 サイドストーリー後編
[49] 同上
[50] マップ会話 スクランブル交差点 穂波×奏 ID:839、マップ会話 音楽ショップ 穂波×奏 ID:841、マップ会話 センター街 穂波×奏 ID:1185、マップ会話 ショッピングモール 穂波×奏 ID:1218
[51] マップ会話 ショッピングモール 穂波×奏 ID:840
[52] ★3[画面の向こうに…]宵崎奏 サイドストーリー前編
[53] 25時、ナイトコードで。 メインストーリーオープニング
[54] 25時、ナイトコードで。 メインストーリー3話
[55] 25時、ナイトコードで。 メインストーリー7話
[56] [この春を、あなたと……]宵崎奏 サイドストーリー前編
[57] ★3[いつものラーメン]宵崎奏 サイドストーリー後編
[58] 25時、ナイトコードで。 メインストーリー17、18話
[59] カーネーション・リコレクション イベントストーリー5話
[60] カーネーション・リコレクション イベントストーリー6話
[61] 灯のミラージュ イベントストーリー5話
[62] 交わる旋律、灯るぬくもり イベントストーリー8話
[63] 「『プロセカ』ネタバレ全開シナリオチームインタビュー! 苦しくなる展開もあるけれど、不安になりすぎずに見守ってほしい」(https://news.denfaminicogamer.jp/interview/211005a)
[64] 同上
[65] 涼元悠一のツイート(https://twitter.com/SuzumotoYuuichi/status/1231212960992751616)